本記事は【後半】となります
前編はこちら
「食事の制約があることで、諦めなければならない場面をたくさん見てきました。でも、本当は誰もが同じテーブルを囲んで『美味しいね』って笑い合えるはずなんです」。
東京農工大学の博士課程で流体力学を研究する傍ら、渡部裕也さんは、「食で困っている人をゼロにしたい」という大きなテーマに情熱を注いでいます。その純粋で力強い願いを原点に、誰もが自由に食を選び、共に楽しめる社会を目指す渡部さんの挑戦が、今始まろうとしています。
■なぜ、その事業をやりたいのですか?
この事業にかける想いの原点は、大学時代の国際交流サークルでの経験にあります。 当時、様々な国の留学生たちと交流する中で、食事を共にすることが文化理解を深め、人と人との繋がりを強める素晴らしいきっかけになることを肌で感じていました。
しかし、同時に「食の壁」というものも痛感しました。特に印象的だったのは、イスラム教徒の留学生たちと一緒にバーベキューを企画した時のことです。 ハラルのお肉が近隣のスーパーでは全く手に入らず、何軒もお店を探し回らなければなりませんでした。 一番困ったのはバーベキューのタレで、ハラル対応のものが本当に見つからず、結局、浅草にあるハラル焼肉店を数店舗回って、ようやく分けていただいたという経験があります。
その時、「食べる」という、生きる上で当たり前の行為が、これほどまでに大変なことなのかと衝撃を受けました。一食を準備するために、こんなにも労力と時間がかかっている。この課題を何とかしたいと強く思うようになりました。
さらに悲しかったのは、バーベキューの最後に用意していたマシュマロが、豚由来のゼラチンを含んでいたために、イスラム教徒の友人たちと共有できなかったことです。 せっかくの楽しい時間を、些細なことで分かち合えなかった。この時の悔しさ、もどかしさが、今の私の情熱の源泉の一つになっています。
PDCの「情熱」を重視する理念に触れ、この内なる想いを形にしたいという気持ちが一層強くなりました。
■今の価値観に繋がる原体験は何ですか?
今の私の価値観や性格に繋がる原体験としては、やはり幼少期を上海で過ごしたことと、大学での国際交流サークルの活動が大きいと感じています。
上海での生活は、日本とは異なる文化や価値観に触れる日常でした。それが、今の私の異文化に対する理解や受容の基礎になっていると思います。
そして、国際交流サークルでは副代表を務め、多くの留学生と関わる中で、彼らが抱える様々な困難を目の当たりにしました。 特に、先ほどお話ししたバーベキューのエピソードのように、食に関する問題は生活の根幹に関わるだけに、その影響の大きさを痛感しました。
元々は英語や異文化への興味から国際交流に関わり始めましたが、留学生と接するうちに、食事や睡眠といった生活基盤に関する課題解決への意識が強くなっていきました。
■事業を通じて、どんなビジョンを実現したいですか?
私のビジョンが実現した世界は、「誰もが当たり前のように好きなものを選べて、その美味しさをみんなで共有できる、そんな優しい世界」です。
食事の制約によって誰かが疎外されたり、我慢を強いられたりすることのない社会。食を通じて、多様な背景を持つ人々が自然と繋がり、笑顔が生まれるような空間を創り出したいと考えています。
大学への自販機設置はその第一歩です。 まずは自分のいる東京農工大学のキャンパスから始め、将来的には他の大学へも広げていきたいです。
そして、ただ商品を売るだけでなく、例えば自販機を通じて利用者同士が繋がれるようなコミュニティ機能を持たせたり、遠く離れたキャンパスの自販機同士が連携したりするような、新しい価値を生み出せる仕組みも構想しています。
それによって、本来なら出会うはずのなかった人々が食を介して出会い、相互理解が深まる。そんな未来を描いています。
■事業を加速させるために、どんなモノやヒトが必要ですか?
この事業を加速させるためには、正直なところ、ビジネスに関する経験と知識がまだまだ不足していると感じています。 そのため、以下のような方々や企業との協業を強く希望しています。
- 食品の流通に詳しい専門家や企業: ハラル食材やアレルギー対応食品などの安定的な仕入れルートの確保や、効率的な物流システムの構築にご協力いただきたいです。
- 自動販売機関連の企業: 自販機の導入・運用ノウハウはもちろん、将来的には冷凍食品対応の自販機 や、在庫状況や商品情報をリアルタイムで発信できるようなスマートな自販機の開発などにも一緒に取り組めたらと考えています。
- 外国人労働者を多く雇用されている企業: 従業員の方々の食に関するニーズや課題についてお話を伺い、企業内での食事提供ソリューションとしての可能性も探っていきたいです。
- 大学関係者・生協: まずは実績作りのために、大学の生協と連携できないかと考えています。 例えば、生協で現在販売している商品の中でハラル対応のものを調査し、ポップなどで分かりやすく表示するといった協力体制から始められるかもしれません。 また、同じ大学内の別キャンパスに入っている無印良品さんのように、既にハラル対応の食品(例えばカレーなど)を扱っている企業とのコラボレーションも模索したいです。
大学に新しいことを提案する際には実績が重要になることも理解しているので、まずは小さくても具体的な成果を積み重ねていくことを重視しています。